おそらく誰でも記憶にあるだろう。小学校や中学校の頃、ひとときもじっとせず、おしゃべりをやめず、しかもその発言がKYなのに意外と本質を突いていたりして教師を困らせる、というタイプの生徒が一人くらいはいたことを。その生徒はいまなら間違いなく「ADHD(注意欠陥・多動性障害)」と認定されるだろう。
『ADHDでよかった』(新潮新書)の著者で、自身もADHDだという立入勝義氏は、在米20年のコンサルタント。立入氏によると、ADHDは人口の数%はいるが、一般的な理解が進んだのは、せいぜいここ10年くらいとのことだ。
「私が小学生中学生だった30数年前には、発達障害についてはほとんど理解されていませんでした。当然ながら私も『多動で不注意の問題児』という扱いでしたし、実際、問題もたくさん起こしました」(立入氏)。
一方で、ADHDは別名「天才病」とも言われ、特定の分野で際立った才能を発揮する人も少なくない。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツをはじめ、有名なIT起業家の大半はADHDなどの発達障害であるとの見方もある。また、マイケル・フェルプスやブリトニー・スピアーズ、あるいは大人のADHDの啓発活動をしている勝間和代氏のように、自身のADHDを公言している著名人も少なくない。
立入氏も、日本の大学入試は「不注意」で全敗したものの、アメリカに渡ってUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)を卒業し、マーケティングや事業開発を専門にしてキャリアを築いた。自分で起業した経験も持っている。
「好奇心旺盛で、興味を持ったことには徹底してのめり込むADHDの人は、組織での規律を求められるサラリーマンには向いていないかも知れませんが、自分の好きな事業に好きなだけ打ち込める起業家には向いていると思います。特にIT周辺の事業とは親和性が高いので、IT業界は『ADHDだらけ』です」(立入氏)
ちなみに、日本の起業家の中でも自身のADHDを自覚している人がいる。楽天の三木谷浩史氏もその一人だ。ジャーナリストの大西康之氏が著した『ファーストペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(日本経済新聞出版社)の中で、三木谷氏は、「他の人と違う。ADHDの傾向があるかもしれない」と自己分析している。
実際、小学校時代の三木谷氏は、授業に興味を失うとふらふらと教室を出て行き、いつも廊下に立たされていたという。本の中で描かれる三木谷氏は、疲れ知らずで働き続け、会話をしていても普通の人にはついて行けないほど話は飛びに飛び、世界中をプライベートジェットで飛び回っている。しかも、興味のあることには熱狂的に入れ込み、「頭の中では同時に何本もの列車が走っている」が、興味のないことには露骨にソッポを向いてしまう。こうした特徴は、ADHDの特徴に極めてよく似ている。
「私も34歳の時に『ADHD』と認定されて落ち込みましたが、今では悲観することはないと思っています。特徴を見極めて、社会と適切に付き合えるようになれば、ADHDの人も社会に多大な貢献をすることができるのですから」(立入氏)
そして、「ADHDを受け容れる社会の側には、杓子定規に普通を強制しないことを求めたいですね」と立入氏は話している。
デイリー新潮編集部