子供の発達に遅れを感じたら、難聴の可能性を疑ってみる


親にとって、子供の発達は最も気がかりなことのひとつです。子供は1~2歳くらいから言葉によるコミュニケーション能力を発達させていきますが、その発達が遅れる原因のひとつとして「難聴」が考えられます。音が聞こえているかどうかはわかりにくいため、子供の見落とされがちですが、もし難聴である場合は、早期に治療を始めることが推奨されます。



◆難聴を疑うべきサイン

子供の1000人に1~2人が難聴を抱えていると言われています。そして、難聴の子供の約9割は、聴覚に問題がない両親から生まれてきます。また、難聴の原因の3分の1は遺伝的なもの、3分の1は感染症や薬剤などによるもの、そして残りの3分の1は不明とされています。

つまり、両親の聴力に問題がなく、胎児の間や生まれてから特に病気などにかかっていなくても、子供が難聴を発症する可能性はあるのです。聴力に問題がある子供には、次のような傾向が見られることがあります。

【小さな子供の場合】
・大きな音に反応しない、または大きな音がしても眠っている
・生後3か月を過ぎても呼びかけに反応しない
・生後6か月を過ぎても音がする方へ向いたり、音を上手にまねたりできない
・生後12か月の時点でまだおしゃべりをしない
・2歳までに単語をしゃべらない
・3歳になっても単語も2語文も話さない
・何かを表現をする際に言葉の代わりにジェスチャーを使う

【年長の子供の場合】
・周りの子供より言葉の数が少ない
・聞き取りにくい言葉でしゃべったり、非常に大きい(または小さい)声を出したりする
・何度も聞き返す
・テレビの音を非常に大きくする
・集団から距離を置いているように見える
・会話を正しく理解していないように見える
・保育施設や学校でぼんやりしていたり、読み書きや計算が苦手だったりする



◆早期の発見と対策が重要

これらのサインは、知的な問題や神経発達の問題を抱えているケースと似ていますが、難聴が原因である場合もあるのです。親や周囲の人が発する声をきちんと聞き取れなければ、当然ながら言葉の発達は遅れがちになります。

早期発見には聴覚スクリーニングが大切です。生まれてすぐの赤ちゃんは言葉を話せないため、耳の聞こえはコンピューターに出る反応によって調べます。最近では、病院で出産してから退院するまでにスクリーニング検査を実施することが多くなっています。

生後6か月未満の子供に対してよく行われているのは、聴性脳幹反応(ABR)という検査です。この検査では睡眠中にヘッドフォンで音を聴かせ、音に反応して生じる脳幹の脳波を測定します。また、ABRに似た検査で、最近開発された周波数別の聴性定常反応(ASSR)という検査が行われることもあります。

難聴によって言葉の発達が遅れてしまうと、結果的に学校教育についていけなくなります。そうなると、学習全般に支障をきたし、本来その子が持っている能力を生かせないことになるのです。



◆生後6か月までの対応がカギ

難聴は目に見えないため気づかれにくく、2歳を過ぎてからの「言葉の遅れ」によってようやく発見され、支援開始が3歳以降になることがしばしばありました。しかし、支援開始が3歳以降となると、その後の言語習得にかなりの努力が必要になってしまいます。

言葉の習得には、脳がさまざまな能力を吸収可能なできるだけ早い時期に、脳に音の刺激を与え、眠っている脳の聴覚システムを働かせてやる必要があるのです。その「できるだけ早い時期」の目安は生後6か月とされています。

実際に米国の調査によると、生後6か月までに補聴器を装用し始めた子供は、3歳の時点で健常児の約90%の言語力があったのに対し、1歳以降に開始した子供は3歳の時点で7~8割の言語力だったという結果が報告されています。

万一聴力に問題が見つかった場合も、生後6か月までに補聴器をつけて適切な対応を開始することによって、その後の言語能力やコミュニケーション能力に問題が生じる可能性は少なくなます。それらの能力は子供の将来を大きく左右するため、生後すぐに聴覚スクリーニング検査をすることが重要なのです。

生まれたすぐは問題なくても、後から難聴になる場合もあります。新生児のスクリーニング検査で問題がなくても、その後子供の言葉の発達に違和感を感じたら、親はその子の様子を注意深く観察しましょう。上記のようなサインが現れた場合は、なるべく早く医師に相談するといいでしょう。



◆タイプに応じた対策が必要

難聴といっても、軽微なものから高重度のものまでさまざまな程度があります。また、全体的に聞こえにくい伝音性難聴、高音域など特定の周波数の音が聞こえにくい感音性難聴など、複数のタイプがあります。

また、おたふくかぜにかかった後に難聴になることがあります。これは必ず片耳に起こり、現在のところ治療方法がありません。おたふくかぜにかからないようにワクチン接種が勧められます。

そのほか、難聴を生じているのが片耳か両耳かといった違いもあり、その子の難聴のタイプに合わせた治療やトレーニングが必要になります。場合によっては手術が必要なこともあります。いずれにせよ、早期に専門家に相談して対策を立てることが大切です。

執筆:諸富 大輔(Mocosuku編集部)
監修:三原 武彦(小児科医、三原クリニック理事長)

Mocosuku編集部


2015.10.24 転載

ランキング


    
   

ただいま入会キャンペーン実施中!

★関連書籍34冊の紹介はトップページに掲載しています。

幼児教育