近年、発達障害を抱える人が増えているらしい。先日のNHK朝の情報番組「あさイチ」では、「大人の発達障害」を特集。その中で「ネガティブすぎるモデル」として知られる栗原類が、アメリカに住んでいた8歳の時に注意欠陥障害(ADD)と診断されたことを初めて告白。「授業前に水に飲まないと教室に入れない」「家を出る時間はぴったりじゃないと気が済まない」「冷蔵庫のものの位置が少し違うだけで気持ち悪いと感じる」などのこだわりがあったことを明かした。栗原曰く、「早期に診断、治療したことで、自分の弱点や、できること、できないことがわかりやすくなった」というが、それはそもそもどのような障害なのか。
福島学院大学教授・星野仁彦氏の『それって、大人のADHDかもしれません』(アスコム)では、この発達障害について触れている。この障害は、多動(落ち着きがないこと)、不注意(注意集中に欠けること)、衝動性(予測不能の行動をすること)、仕事の先延ばし傾向・業績不審、感情の不安定(セルフコントロールの欠如)、低いストレス耐性、対人技能の不器用さ、低い自己評価と自尊心、新奇追求と独創性などを特徴とするもの。1980年、米国精神医学会によって取り上げられた後、1987年以降は、「注意欠陥・多動性障害(ADHD)」と改称され、広く知られているが、特に栗原のようなADHDの中でも多動傾向が少ないものの通称として「ADD」という呼称は未だ通称として用いられているようだ。ADHDは長い間、子ども特有の障害で、成人になると軽快する障害と見なされていたが、1980年代以降、大人の症例報告が急増し、現在では、成人の人口の1.5~3%がADHDの診断基準に当てはまるといわれている。ADHDを専門とするのはそもそも児童精神科医だが、日本では欧米に比べ児童精神医学は30~40年以上遅れている。栗原が発達障害の早期発見が出来たのは,児童精神医学の進んだアメリカで暮らしていたことも大きな要因といえるだろう。
ADHDを抱える人は、周りの人に初めはほとんど理解されないのが現状だ。そもそも彼らは健常児・者に比べるとはるかにストレスに対する抵抗力が弱いので、健常者以上に温かい理解がある接し方と対応が必要となる。栗原は、診断されたことによって、生活しやすくなったと語っているが、診断されず、周りの理解がされないと、彼らが思春期以降、さまざまな二次障害や合併症が起こる場合も多い。たとえば、うつ病、アルコール依存症、薬物依存、反社会的行動などが生じ、ADHD本来の症状が覆い被さって余計に診断が遅れる場合もある。
たとえば、モーツァルトもADHDだったと知られる。伝記によれば、彼は、とにかくよく動き回りいつも神経質に手を動かし、こだわりが強く、気持ちが不安定だった。純粋無垢な性格であるうえ、金銭の管理が全くできなかった。「モーツァルトは金に疎い」ということを敏感に感じ取った悪意ある人たちが、守る気のない高配当の約束をしてモーツァルトに作曲させたり、演奏を頼んだりしている。そのストレスからか、モーツァルトは女性関係にめり込んでいった。「スカトロジー(糞尿嗜好)」だったことは有名だが、下品な表現を使ってはありとあらゆる女性を誘っているさまは周りから呆れられていたらしい。周りから理解されていれば、このような二次的な障害は避けられたはずである。
その他にも過去の偉人や芸能人にもADHDだった人は少なくない。リストに挙げれば、その多さ、この才能の豊かさには驚かされることだろう。
作家 : アガサ・クリスティ、エドガー・アランポー
発明家 : トーマス・エジソン、ライト兄弟
科学者 : アルバート・アインシュタイン、ガリレオ・ガリレイ
画家 : パブロ・ルイズ・ピカソ、レオナルド・ダ・ヴィンチ
映画監督 : ウォルト・ディズニー
俳優 : トム・クルーズ
スポーツ選手 : ベーブ・ルース
軍人 : ナポレオン・ボナパルト
いまや「ADHD」は、薬物療法によって症状をおさえられる障害である。そして、理解さえあれば、その才能を活かすことだってできる。大切なのは、周りが環境を整え、「ADHD」を理解すること。栗原のカミングアウトがその一歩となることを期待したい。
ダ・ヴィンチニュース から引用 2015.6